発作性上室頻拍PSVTの機序を探るのは結構むづかしいですよね
今回はー AT?AVNRT? 将又Af?ーと題して考えてみましょう
同一被検者(78才、男性)の、ホルター心電図で午前から午後にかけての3種の時間帯のものです
誘導は3チャンネルで、CH1:CM5、CH2:NASA、CH3:ModifiedCC5(V5⊕と剣状突起間⊝)
先ず一つ目の心電図
RR間隔が早期収縮が短くなったところは3ヶ所ありますね(区間①に注目)
早期収縮の連結期が一定で、QRS幅や形状が洞調律と同じなので、P波がぽこぽこ連続してるけど(今は気にしないで)、取り敢えずは「上室性期外収縮(PAC)」のようですね
確認のため、PACのリターンサイクルを見てみましょう
基本調律は、1~2拍めのRR間隔
そこで予想されるリターンサイクルは、1拍目のP波立ち上がりから2拍目のq波までの間隔(黒い矢印でリターンサイクル▲)が、便宜的にこの調律のリターンサイクルに近似します
(これについては下のブログ「リターンサイクルについて詳しく見てみる」で詳細に書いています)
区間①の範囲で見てみましょう
最初のPは洞調律ですね
続く早期のP'はPと少し形が違ってるので異所性のPAC
その後にP''、最後にp'''がでてますがR波は追従しておらずブロックされています
その後長い休止期があって、区間②では再び洞調律のPによるR波が出ていますが、それに続く早期のP’はR波がブロックされています
これは、区間①のP’とP''及び区間②のP’はT波のピーク前後の不応期に出てるためR波がブロックされてますね
それでは、区間②の洞調律のPが発生するためのリターンサイクルの発生点はどこにあるのでしょうか
区間②のPから、先ほどの近似的なリターンサイクル(黒矢印の▲)の長さ分前に戻るとそこは区間①のP'''になります
つまり、P'''で発生した刺激は洞結節へと逆行伝導し洞結節の刺激をリセットし、洞調律の基本周期後に区間②のPを発生させたのです
区間②にあるP’もR波がブロックされてますが、リターンサイクルを経て次の区間①でPを発生させていますね
これが、これらの心電図が「ブロックされたR波を有するPAC」であると考えた理由となります
そして、P波が間歇的に数拍連続し周期は約0.2秒(300bpm)であることから、心房起源の頻拍で、R波ブロックを伴う発作性心房頻拍 PAT with Block と考えられますね
さて、2つ目の心電図が下図です
区間①はP’によるPACですね
区間②では、洞調律P波の後に、P’が4拍連続してるのが読み取れます
P’の最初の2拍はR波ブロックされずに変行伝導(右脚ブロック型)によるR波が出てきました
(なぜここだけ変行伝導になるかは、自分にはわかりませんので識者の見解をお待ちしています)
3拍目のP’はさすがにR波直後なのでR波はブロックされてますね
4拍目のP’は不応期が過ぎてたため通常の伝導となってます
その後、リターンサイクルを経て区間③のPへと続きます
結果、区間②は4連続するP’のPATと言うことになりますね
区間③では、最初のP’に続いてP’が出てますが、これはR波ブロックされていますね
その後、リターンサイクルを経て洞調律P波となりますが、心房性PACは同じ関係で繰り返してました
3つ目の心電図です
心拍数150~300bpmでQRSは幅広くなくPP間隔やPQ間隔はランダムではなく
一見、発作性心房細動PAfか房室/房室結節リエントリー(回帰)型頻拍:AVNRT、或いは発作性心房頻拍PATのようにみえませんか
先ずよく見ると整然とP波があってPQ間隔が各々一定のようで、f波ではなさそうですね
と言うのは、f波は大きさやタイミングがランダムにでるP波で、基線に戻らないのが殆どで、PQ間隔やRR間隔は不整になりますが、この心電図はちょっと違うと思います
房室/房室結節リエントリー型頻拍(AVNRT)と見ると、RP間隔が長いので非通常型房室結節リエントリーでしょうかね
或いもう一つは、心房頻拍も考えられますね
では、P波を詳しく見てみましょう
P波を凝視すると、何種類かのP波があるようです
どこかに違いはないかなと、その形とタイミングをCH1とCH3に注目しましょう
よく見ると下図の心電図には3種類のP波があるように見えませんか?
(私には、そう見えます!)
CH1では形の違うP波 ⇒洞調律と思われる幅広めのP(黒字)、T波に重なった2峰性ようなP''(緑字)、低くて幅の狭い、前の2つとは違うP'(青地)
CH3では極性の違うP波 ⇒ 洞調律と思われるP(黒字)、少し形に違う⊕向きのP''(緑字)、⊝向きのP’(青字)
CH1で2峰性のようなP’’は、細かく見てみると実は⊝のP’’がT波に重なって(最初のピークがP'頂上、次のピークがT波頂上)いると推測できます
CH1とCH2を合わせて考えるとP波は、洞調律のP、区間①にP’、 区間②にP''、区間③にはP’とP’’が見えますね
次に考えることは、これらのP波が出るタイミングとどこから出てるか(起源)です
洞調律のP波は約75bpm
区間①のP’は後半300bpm位でR波のブロックを伴っているので心房頻拍ATで、⊕極性なので右房起源と考えます
区間②のP’’は、150bpm位でPQ間隔が一定の0.2秒でlongRPほどではないので、心房頻拍ATか非通常型のAVNRTと考えてもいいと思います
極性を見た場合、CH2とCH3でP’’は⊝極性なのでベクトルは下から上へ、且つ左から右に向かってるので、左房起源或いは逆行性興奮のはずです
先ずATと考えた場合、直前のリズムがは300bpmだったので、左房起源になったとしても急に半分に落ちるのはちょっと?な感じがしませんか
それと、上記「一つ目の心電図」の所で書いたように、ATの直後は殆どの場合リターンサイクル位の休止期があると思いますがここにはありませんね、これもちょっと?
では、非通常型のAVNRTと考えてみましょう
区間①の最後のP’はブロックされずに房室結節を通りR波を生じてます
そのPQ間隔は区間②の頻拍のPQ間隔と同じなので、区間②と同じ房室結節の伝導だということが推測できます
区間②は、長めのRPでP波が⊝極性なので、房室結節(のSlow Pathway)を逆伝導していると考えられます
そして、区間②の終わり方を見ると、区間②の最後のP’’はR波がブロックされてその後にP’が出ています
これはどういうことでしょう?
次のように考えることができませんか?
区間②が非通常型AVNRTであれば、心房からの興奮の房室伝導はFast Pathwayを順行してR波発生し、R波興奮の刺激がSlow Pathwayを逆行して心房を興奮させP’’となり、その繰り返しが頻拍となります
ここで、頻拍の途中で、Slow Pathwayを通った順行性刺激がブロックされR波を発生しないと、逆行性の刺激がなく心房波 P’’は生じません
つまり、頻拍がブロック(停止)されることになり、この後に区間③でP'が発生してます
区間③でR波ブロックされたP’は、リターンサイクルを経て洞調律のPに戻ってます
以上の点から見ると、区間②はATではなくて非通常型のAVNRTによる頻拍と考えた方が妥当だと思います
・・・ 如何でしょうか?