ホルター心電図 四方山話

ホルター心電図 四方山話します

QRS波形をベクトルで読み解く その1(起電力ベクトルの原理)

ベクトルという考え方で心電図波形を見ると、心筋活動の時間、方向、大きさが見えてきます

(心電図波形は、電気刺激の伝導により起電力が発生した結果であり、心筋活動そのものではないという記事を見たことがあります

でも、心筋活動による電位変化が起電力として現れ心電図となるのだから、心筋活動そのものと見做していいと思うのですがね、如何でしょうか?)

 

そこから推測して、刺激伝導経路の時間と方向が見えてきて、波形の成因が分かった気がするものです

なので、ベクトルという考え方を身に着けておくときっと役立つと思いますよ

 

では、ベクトルっていったい何?

力を表すにはその「大きさ」だけを表すスカラー

「大きさ」に加えて「向き」も持った量を表すベクトル量

があります

専門的な知識は不要です(と言うか、よくわかりません)

わかる範囲で理解していきましょう

 

例えば、電気の力でも電池のようなものの起電力を考えた場合、「電圧」や「電流」は大きさ(と極性)を持ちますが方向はありません

一方、筋肉で発生する起電力は、大きさとだけでなく力の方向を持ってますね

それを表したのがベクトルです

下図を見てください

 

ベクトル線

矢印ABは、2次元座標で、有向線分で表されその矢印の角度がベクトルの向きを意味し、そして、ベクトルは向きと大きさが同じであれば「位置は問題にしない」という特徴があるので、心電図波形からの刺激伝導系の解釈に使うのにもってこいだと思います

心筋興奮による起電力は、3次元的に発生する場所と大きさと方向が、時間と共に変化します

これをある瞬間において、ある断面で2次元的に大きさと方向を座標軸に投影させたのがベクトルです

そして、各座標軸に投影されたベクトルの大きさが時間と共に変化したのが心電図ということになります

具体的には、投影される座標軸は「**誘導」と呼ばれ、ベクトルの大きさを電極がピックアップし、時間経過と供に記録されると「**誘導の心電図」ということになります

 

では、心電図誘導の基礎、Einthovenの3角形(下図)について見てみましょう

心電図の四肢誘導は、双極*で四肢に電極を貼り、心臓を前額面の2次元像と見て、心臓を取り巻く正3角形に起電力の向きと大きさを投影するものです

座標は、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ誘導で⊕⊝極性は下図のように決まってます

まず、ある時間に心室で赤矢印のような起電力(左心室と右心室の起電力の合成された起電力と考えます)が発生したとすると、各座標、つまり各誘導には図のような電位が観測されます

つまり、起電力ベクトルの各座標(誘導)方向の成分、つまり起電力ベクトルを各座標に投影した(垂線をおろした)大きさの電位が観測されます

心臓は時間と共に起電力の大きさと方向を変化させるので、座標に投影された電位を時間に沿ってプロットしていくと大きさの変化する波形となります

それが、各誘導に現れる心電図ということですね

 

Einthoven3角形

 

次に、先ほど書いたように、ベクトル線は大きさと方向を変えなければ平行移動できるという特徴があるので、この座標(誘導)を房室結節辺りにその中心を集めてみましょう

すると、下図のようになりますね

赤矢印の起電力ベクトルは、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ誘導の座標では垂直に投影移した大きさの電位が生じます

見方を変えれば、各誘導で記録された電位が分かれば、そこで発生した起電力ベクトルが分かるといいうことになりますね

つまり、座標の原点を起点とした角度と大きさとなるので電気軸で考えることができます

 

Einthoven3角形平行移動

 

では、この考え方を下図のようなホルター心電図の誘導に当てはめて見ましょう

CH1がCM5誘導、CH2がNASA誘導で下図の矢印(橙色矢印がCM5、青色矢印がNASA)の大きさの電位がそれぞれ記録されたとします

そこにどんな大きさと方向の起電力が発生したのかは、各誘導に記録された電位からそれぞれ垂線を降しその交点を求めれば、それがそこで発生した起電力となります

原点からの距離が大きさで、角度が電気軸となります

この起電力の大きさの時間的変化を記録したのが心電図になります

ですから、時間ごとの各誘導の大きさをプロットしてゆけば起電力の大きさと電気軸の経時変化が導けるということになりますね

 

*双極誘導(或いは単極誘導)とは・・・・

 心電図に限らず生体信号の導出には、双極誘導と単極誘導の2種類あります

 双極誘導は、生体信号の導出を2ヶ所で(導出電極ある距離離して)行いそれを差動増幅器の⊕入力と⊝入力にとするので、その出力は入力信号の差分が出力されます

 単極誘導は、ある基準点を設けてそれと導出電極間の電位を測るものです

 それぞれ特徴があり、ノイズについていえば、双極誘導は差動で入力するので交流やアーチファクトの同相入力に対し除去しやすいことが言えます

 単極誘導は基準点が不関電極なので、そこの位置や変動やノイズの影響を受難いことです

 生体信号については、双極は限局的な起電力変化が表れやすいことや、導出位置などの影響を受けやすいことです

 また、単極誘導は全体的な変化を見るのに適し、不関電極の影響を受けにくいことです