ホルター心電図には、ノイズやアーチファクト(この辺の定義はすごく曖昧ですね)が嫌というほど、特にここ一番波形を詳しく見たいというところで、ぐっといろんな種類のノイズが混入してくるってのは、「ホルターあるある!」ですよね
例えば、Ⅱ°/Ⅲ°ブロックのP波を確認したいのに、基線に緩やかで細かなポコポコしたノイズが混入してP波のように見えるとか
更に悪いことには、そのノイズのような波形がShortRunように見えたり、波形をゆがませてWideQRSになったりSTレベルが上下したりと、心電図自体なのかノイズなのか、区別できないことって多々ありますよね
例えば、いわゆる「歯磨きVT」のようなガチャガチャノイズや、基線がゆるやかなに上下する振動「Torsades de Pointes」に見紛いそうな波形など
はたまた、あるべきところにP波やR波が何もなくて基線のまま揺れて数秒間、それも全チャンネルともですよ
アレスト(洞停止)と見間違いますね
そういうノイズ(この場合はアーチファクトと言った方が適切かも)もあります
このように、本来の心電図以外の信号が混入したため、ないものが有ったりあるものが無くなったり、本来の形をゆがませたりと心電図解析精度を悪化させる原因となります
この後、いろんなノイズ/アーチファクトを紹介したいと思いますが、その前に簡単に
用語の定義(かなり私的な見解かもしれませんが)をしておきましょう
心電図が、体表に貼った電極から記録されるまでの経路で混入し、本来の心電図以外の信号(起電力)によって直接・間接的に心電図波形に影響を与えるようなその信号を「不要な雑音」という意味でノイズと呼びましょう
発生する原因を場所の観点で分類してみると次のようになると思います
ーーー ①アーチファクト:導出・記録系で人工的に作られるノイズ
ノイズ ーーー ②外来ノイズ:導出・記録系以外から誘導されるノイズ
:交流障害、電磁誘導ノイズ
ーーー ③生体ノイズ:生体から発生するノイズ
:筋電図、生体信号、皮膚インピーダンス
*インピーダンスとは
生体現象や物理現象を等価的に電気回路を形成できるとして考えた場合、直流抵抗、キャパシタンス
(静電容量)、インダクタンス(誘導係数)を持つ電気素子で構成されます
これをインピーダンスと言います
インピーダンスは、周波数によってその値を変える、周波数依存の抵抗成分となります
①アーチファクト
人工的に発生するノイズということです
生体や電気回路、外来から誘導されるノイズ以外のものをいいます
ほとんどがこのノイズが占めます
ノイズ発生源は、インピーダンス(簡単に言えば抵抗)があるところに起電力が生じると電流が流れて電圧が発生し且つ時間的に変化してそれがノイズ源となります
では、どこにインピーダンスが発生するのでしょう
通常、心電図記録する時は必ず、皮膚上に心電図電極を貼り、電極リード線でつなぎ、それを記録器のコネクターに差して接続します
(最近では、ディスポ電極と電極リード線が一体化したものが多いです)
この構成を疑似的に書くと下図のようになります
ここでは心電図電極インピーダンスと皮膚間の接触のインピーダンスを便宜上まとめて電極インピーダンスとしています これが主なものとなります
他には、電極リード線が心電図電極と接続する時の接触抵抗、リード線自体などで抵抗が発生します
これらのインピーダンスや抵抗が極端に変化したり、異なる伝導体での境界面で起電力が発生したりするとアーチファクトなって心電図に重畳してきます
②外来ノイズ
生体や測定系以外の所にノイズ源があり、それが生体や測定系のインピーダンスの高い部分に、静電誘導や電磁誘導によりノイズの混入となります
高い周波数(心電図増幅器の周波数特性以上の周波数)では、強度が強くなければ影響は受けないと思われます
交流ノイズ(電源周波数)、いわゆるハムが主なものとなりますが、強い動力(モーター)の近傍、交流使用機器の至近距離からの混入があります
外来ノイズは、下図の差動増幅器の+/ー入力に同時に(同振幅、同相)心電図信号に混入するので(このようなノイズを同相ノイズと言います)、使用されている差動増幅器の特性(下記の数式参照)により同相ノイズは打ち消されて出力にはほぼ出てきません
しかし、+/ー入力に加わる同相ノイズの大きさが極端に異なっていると、その差分 が信号に重畳されて出力してしまいます
*差動増幅器の特性
差動増幅器は、⊕と⊖の2つの入力を持ち、その差分を増幅します
Eout = Ecg⊕ ー Ecg⊝
仮にEcg+とEcg-信号に共通に同相ノイズEnが混入すると
Eout = Ecg⊕+En ー (Ecg⊝+En)
= Ecg⊕ ー Ecg⊝
となり、ノイズはキャンセルされ信号差成分だけが増幅され出力されます
(但し、⊕入力と⊝入力に重畳するEnが同じ大きさの場合は同相ノイズはキャンセルされるが、
大きさが異なる場合はその差分が信号差成分に重畳し増幅されて出力される)
③生体ノイズ
生体内で発生する筋電図や各種の生体信号は同相ノイズとなります
皮膚も電気的にはインピーダンスを持つのでノイズを発生します
生体内発生ノイズは同相ノイズなので、交流ノイズと同じ処理がされ出力にはほぼ出てきません
上にも書きましたが、差動増幅器の⊕入力と⊝入力で、同相ノイズの大きさが極端に違っているとその差分が増幅され信号に重畳し出力されてノイズとなります
ここで知っていた方がいいのは、同相ノイズの影響です
外から飛び込んでくる同相ノイズは心電図電極の⊕電極と⊝電極では同じ大きさです
しかし、電極インピーダンスや皮膚インピーダンスが⊕電極と⊝電極で異なっているとそこで発生する同相ノイズの大きさが異なるので、差動増幅器の⊕入力と⊝入力の大きさも異なり、増幅器の出力は心電図信号に同相信号の差分が重畳したものとなります
なので、皮膚インピーダンスや電極インピーダンスはできるだけ小さく同じようになるよう前処理することがノイズの少ない心電図を記録するポイントとなります
【心電図に混入するノイズの話その2
(実際どうなの?)・・・・・に 続く 】