前回は、ホルター心電図で混入するのアーチファクト発生要因を理解するために、皮膚・電極インピーダンスと等価回路についてみました
今回は、心電図信号やアーチファクトを一緒に増幅する差動増幅器のことを知ってた方がよりアーチファクトを理解できると思いますので、インピーダンスと増幅器の関係について見てみましょう
差動増幅器の特性の概要については以前のコラムで書きましたので、そちらを参照ください
生体信号を測定する時にノイズを少なくするために、一般によく言われることに
①増幅器の入力インピーダンスは、皮膚・電極インピーダンスに比べて十分大きいこと
② 皮膚・電極インピーダンスはできるだけ小さいこと
③ 皮膚・電極インピーダンスはそれぞれの電極で同じような状態になること
と言うのがありますね
ではその理由を考えてみます
下図は、心電図信号が皮膚・電極インピーダンスを経由して記録装置の増幅器までの電気回路を模式的に示したものです
増幅器の重要な特性の一つに、信号側から入力側を見たときに「入力インピーダンス」という交流抵抗成分(入力周波数でその値が変化します)があります
これは言い換えれば、入力側にどれだけ電流が流れるかということで、入力側の被測定系に変化を及ばなさないかの性能になります
これを詳しく見ていきましょう
下図を見てください
生体からの心電図信号の電位Esは、図からわかるように、増幅器に対し皮膚や電極インピーダンスZdでの電圧降下と増幅器の入力インピーダンスZiによる電圧降下に分散されます
増幅器の入力に加わる入力電圧Eiは、信号源の電位に対し図の計算式にあるように(オームの法則から)、各インピーダンスの大きさに比例して発生します
つまり、EiはEsに対してZiに比例することになります
ここで仮に、ZiがZdを無視できるぐらい十分大きい(Zi>>Zd)とします
Ei = Zi/Zi × Es = Es
となり、Esがそのまま増幅器の入力に加わることになります
逆に、ZdがZiを無視できるぐらい十分大きい(Zd>>Zi)とします
すると、Ei = Zi/Zd × Es ≒ 0
となり、Esはほとんど入力には加わらないことになります
また、Zi=Zdの場合は
Ei = 1/2 × Es
となり、心電図信号の半分の大きさしか入力に現れないことになります
増幅器は、Esを何千倍にも増幅するのでそれに伴って増幅器で発生する雑音も同時に増幅されるので、入力に加わる信号の大きさが大変重要だということになります
つまり、増幅器の入力インピーダンスは信号源のインピーダンスに対し、大きい程有利だということが言えるのです
具体的には、
通常、皮膚電極インピーダンスは約2KΩ位なので増幅器入力インピーダンスは通常2MΩ~10MΩとなるように設計されています
次に「② 皮膚・電極インピーダンスはできるだけ小さいこと」についてみて見ましょう
下図は、ホルター心電図の記録装置入力部分を単純化したもので、アーチファクトだけについて考えるため、心電図信号はゼロ(なし)としてます
ノイズ電圧Enは皮膚・電極で発生するアーチファクト信号
固定インピーダンスZfは皮膚・電極の等価回路のインピーダンスで変動しない成分
変動インピーダンスZvは、変動する成分
入力インピーダンスZiは、差動増幅器の入力インピーダンス(入力抵抗)です
入力電圧EiはZvにかかる電圧で、差動増幅器の入力電圧となります
次に②の問題、皮膚・電極インピーダンスの大きさについて見てみます
上図の回路では、増幅器の入力電圧Eiは、計算式のようになります
変動インピーダンスZvに対し固定インピーダンスZfが極端に小さいと仮定します
すると、Ei = Zv / Zv × En = En
となり、ノイズ電位がそのまま入力に現れてきます
これに対しZvに対しZfが極端に大きいと仮定します
すると、Ei = Zv / Zf × En ≒ 0
となり、Enはほとんど入力には加わらないことになります
また、Zf=Zvの場合は
Ei = 1/2 × En
となり、ノイズ信号の半分の大きさしか入力に現れないことになります
皮膚・電極インピーダンスは、変動インピーダンス成分が大きく占めまるので、インピーダンスは小さい方が心電図信号増幅には有利だし、ノイズの入力電圧が変動しないようZvの変動も少ない方がいいということになりますね
これが、できるだけ皮膚電極インピーダンスは小さいほうがいいといわれる理由です
因みに、皮膚・電極インピーダンスは乾燥状態で数10kΩ~数100kΩと言われています
そのうち、固定インピーダンスは数10kΩです
最後に③の理由については、差動増幅器の特性による要因が大きいです
差動増幅器は⊕入力と⊝入力(入力の極性を反転させる)があり加わった2つの信号の差分を増幅します
心電図信号であれば、⊕と⊝の大きさが異なるのでその差分が増幅されて信号出力されます
ノイズ信号は⊕と⊝入力で概ね同相同信号で入力するので、その差分はゼロとなります
皮膚電極間で発生するノイズや外部から誘導されるノイズは同相同信号なので、差動増幅器によりノイズ抑制ができるのです
これが、⊕と⊝入力で位相差が有ったり大きさが極端に違ってたりすると、信号入力の差分はゼロではなくなってそれが増幅されて出力されてしまいノイズの原因となります
この原因は、⊕と⊝入力の信号源のインピーダンスが違うことに起因します
なので、各々の皮膚・電極インピーダンスは同じ値(同じ状態)になるようにする必要があります
心電図をよりよく採るために必要な皮膚・電極のインピーダンスに要求されることをまとめると
・皮膚・電極のインピーダンスはできるだけ小さいこと
・もちろん、増幅器の入力インピーダンスが無視できるほど小さいこと
・+/-電極間のインピーダンスに差が少ないほどいい
・皮膚・電極インピーダンスの変動要因は少ないほどいい
・・・・と言うことになります
ここまでで、皮膚・電極インピーダンスと今回の心電図増幅器の関係の基本的関係が理解できたと思いますが、次回、インピーダンスとアーチファクトの具体的な関係について実際例で見ていきたいと思います